
「DX銘柄2024」認定企業の成功事例から読み解く、DX推進のポイントを解説
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「DX銘柄」とは
DX銘柄(デジタルトランスフォーメーション銘柄)とは、東京証券取引所に上場している企業約3,800社のうち、DXを推進するための仕組みを社内に構築し、かつ優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定する制度です。
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、東京証券取引所が共同してDX銘柄の選定をしています。
DX銘柄に選定された企業は、単に優れた情報システムの導入、データの利活用をするにとどまらず、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのもの及び経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業と言えます。
経済産業省がこういった取り組みを行うようになった背景は、「2025年の崖」が大きく影響しているとされています。
「2025年の崖」は、経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』と呼ばれる資料の中で初めて使用されました。
『DXレポート』では、日本国内の企業が市場で勝ち抜くためにはDXの推進が必要不可欠であり、DXを推進しなければ業務効率・競争力の低下は避けられないとしています。
競争力が低下した場合の想定として、2025年から年間で現在の約3倍、約12兆円もの経済損失が発生すると予測されており、これを「2025年の崖」と表現しています。
このような背景があり、経済産業省は企業に対してDXの必要性を強く訴えています。
そこでDX推進に向けた取り組みに積極的な企業や、DXの実績を多く生み出している企業を選定・公表することによって、選定企業のさらなる活躍を期待するとともに、こうした優れた取り組みが他の企業におけるDXの取り組みの参考となるように経済産業省は動いています。
DX先行企業がその他の企業を巻き込む形で、日本企業の競争力を高めていくためにも、DX銘柄の選定は重要な役割を持っていると言えるでしょう。
DX銘柄2024の選定企業について、「DX銘柄2024」 「DXグランプリ企業2024」「DX注目企業2024」「DXプラチナ企業2024-2026」の順で一覧にしてご紹介します。
DX銘柄2024(業種順 証券コード順)※DXグランプリ企業を除く
DX銘柄2024には、デジタル技術を前提としてビジネスモデルなどを抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく「DX」に取り組む企業が選定されています。
証券コード |
法人名 |
東証業種分類 |
---|---|---|
2871 |
株式会社ニチレイ |
食料品 |
3591 |
株式会社ワコールホールディングス |
繊維製品 |
3407 |
旭化成株式会社 |
化学 |
4568 |
第一三共株式会社 |
医薬品 |
5108 |
株式会社ブリヂストン |
ゴム製品 |
5201 |
AGC株式会社 |
ガラス・土石製品 |
5411 |
JFEホールディングス株式会社 |
鉄鋼 |
6367 |
ダイキン工業株式会社 |
機械 |
6645 |
オムロン株式会社 |
電気機器 |
6841 |
横河電機株式会社 |
電気機器 |
7259 |
株式会社アイシン |
輸送用機器 |
9143 |
SGホールディングス株式会社 |
陸運業 |
9101 |
日本郵船株式会社 |
海運業 |
9201 |
日本航空株式会社 |
空運業 |
9301 |
三菱倉庫株式会社 |
倉庫・運輸関連業 |
9434 |
ソフトバンク株式会社 |
情報・通信業 |
3132 |
マクニカホールディングス株式会社 |
卸売業 |
2678 |
アスクル株式会社 |
小売業 |
8316 |
株式会社三井住友フィナンシャルグループ |
銀行業 |
8601 |
株式会社大和証券グループ本社 |
証券、商品先物取引業 |
8253 |
株式会社クレディセゾン |
その他金融業 |
4544 |
H.U.グループホールディングス株式会社 |
サービス業 |
DXグランプリ企業2024(業種順 証券コード順)
DXグランプリ企業2024には、DX銘柄2024の選定企業25社の中でも、特に優れた「DX」の取り組みを行った企業が選定されています。
証券コード |
法人名 |
東証業種分類 |
---|---|---|
5938 |
株式会社LIXIL |
金属製品 |
7011 |
三菱重工業株式会社 |
機械 |
7936 |
株式会社アシックス |
その他製品 |
DX注目企業2024(業種順 証券コード順)
DX注目企業2024には、DX銘柄に選定されていない企業の中から、特に企業価値貢献部分において注目されるべき取り組みを行っている企業が選定されています。
証券コード |
法人名 |
東証業種分類 |
---|---|---|
1333 |
マルハニチロ株式会社 |
水産・農林業 |
4901 |
富士フイルムホールディングス株式会社 |
化学 |
4507 |
塩野義製薬株式会社 |
医薬品 |
5333 |
日本碍子株式会社 |
ガラス・土石製品 |
5711 |
三菱マテリアル株式会社 |
非鉄金属 |
6902 |
株式会社デンソー |
輸送用機器 |
7911 |
TOPPANホールディングス株式会社 |
その他製品 |
9501 |
東京電力ホールディングス株式会社 |
電気・ガス業 |
9064 |
ヤマトホールディングス株式会社 |
陸運業 |
9104 |
株式会社商船三井 |
海運業 |
9233 |
アジア航測株式会社 |
空運業 |
4768 |
株式会社大塚商会 |
情報・通信業 |
2768 |
双日株式会社 |
卸売業 |
8174 |
日本瓦斯株式会社 |
小売業 |
8354 |
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ |
銀行業 |
8616 |
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社 |
証券、商品先物取引業 |
7199 |
プレミアグループ株式会社 |
その他金融業 |
8439 |
東京センチュリー株式会社 |
その他金融業 |
2980 |
SREホールディングス株式会社 |
不動産業 |
9216 |
ビーウィズ株式会社 |
サービス業 |
9715 |
トランス・コスモス株式会社 |
サービス業 |
DXプラチナ企業2024-2026(業種順 証券コード順)
DXプラチナ企業2024-2026には、特に傑出した取り組みを継続している企業が選定されています。DXプラチナ企業の選定要件は、以下のとおりです。
- 3年連続でDX銘柄に選定されていること
- 過去にDXグランプリに選定されていること
上記のとおり、DXプラチナ企業の選定は3年間の時限措置とされているため、今回は「DXプラチナ企業2024-2026」として選定されています。
証券コード |
法人名 |
東証業種分類 |
---|---|---|
6501 |
株式会社日立製作所 |
電気機器 |
7732 |
株式会社トプコン |
精密機器 |
「DX銘柄2024」認定企業の取り組み事例
本章では、「DX銘柄2024」「DX注目企業」「DXプラチナ企業」に選定された企業の中から一部の企業をピックアップし、それぞれの取組事例から要点をまとめました。
引用:経済産業省「DX銘柄2024」選定企業レポート
①株式会社LIXIL
株式会社LIXILは、住宅設備機器や建材を製造・販売するグローバル企業です。
DXに向けた主な取り組みとして、自社のパーパスを実現するための中長期的な方向性を記した「LIXIL Playbook」や、DXに関するロードマップ「LIXIL デジタルトランスフォーメーション・ロードマップ」を策定しています。さらに、より高いCXを提供することを目指した「LIXILオンラインショールーム」の取り組みは、販売における顧客体験を変革し、コスト削減や販売サイクルの短縮、成約率や速度の向上といった具体的な成果に結びついているようです。
【デジタルトランスフォーメーションの取り組み】
■カスタマーエクスペリエンス(CX:顧客体験)の向上
- AI音声認識を活用したオンラインショールームや3D見積もり
-
コールセンターに自動音声認識の技術を導入。顧客体験を向上させ販売プロセスを効率化
■従業員エクスペリエンス(EX:従業員体験)の向上
- 生成AI技術を取り入れた「LIXIL Ai Portal」を導入
-
「LIXIL Data Platform(LDP)」を立ち上げデータを一元管理
CXからEXまで、全方位でデジタル化を推進し、実績を上げていることが高く評価されています。
②三菱重工業株式会社
三菱重工業株式会社は、多国籍の重工業メーカーで、航空宇宙やエネルギー分野で活躍しています。
同社が推進する①カーボンニュートラルの推進と、②社会インフラのスマート化を進める「Σ SynX(シグマシンクス)」の2つの取り組みが高く評価されています。
【デジタルトランスフォーメーションの取り組み】
■カーボンニュートラルの推進
- 日本政府が目指す2050年のカーボンニュートラル達成に対して、2040年までの自社の先行達成を打ち出し、ロードマップを年々具体化
■先進制御技術を集約したプラットフォーム「ΣSynX(シグマシンクス)」の導入
- EC(電子商取引)や物流に対応したワンストップソリューション事業を展開
デジタル技術を活用した安全・安心な社会基盤の実現を目指しており、社会課題解決に寄与するDXとして評価されています。
③株式会社アシックス
株式会社アシックスは、競技用シューズやスニーカー、アスレチックウエアなどスポーツ用品の製造・販売を行っています。
中長期経営計画でも、デジタル・パーソナル・サステナブルの3本柱のひとつとして、DX戦略が適切に位置付けられていること、「既存ビジネスの深化」「新規ビジネスモデルの創出」において、財務成果を期待させる内容となっている点が評価されています。
【デジタルトランスフォーメーションの取り組み】
■既存ビジネスの深化
- データ活用による経営ダッシュボードの見える化
■新規ビジネスモデルの創出
- DTC(Direct to Customer:直接顧客に製品やサービスを販売)シフトの強化
- アシックススポーツ工学研究所の商品開発力と品質を掛け合わせで中期経営計画2023の目標を大幅達成
グローバルな拠点設置・人材配置を行っているだけでなく、全世界で700名超のデジタルプロフェッショナルを抱えており、高いDX実現能力を誇っています。
④ヤマハ発動機株式会社
ヤマハ発動機株式会社は、オートバイや船外機、マリン製品などを製造・販売しています。海外売上比率は約9割を占め、日本を代表するグローバルカンパニーです。
【デジタルトランスフォーメーションの取り組み】
■さまざまなバックグラウンドの人材を集めた「デジタル戦略部」の立ち上げ
- 年間数十個のPoC(概念実証)を実施。新しいアイデアや技術が実際に機能するかどうかを初期段階で検証
- デジタル改革のための人事制度改革、デジタル事業のリーダーを育成
自社の売上拡大を最終ゴールとして、経営目線で「既存ビジネスの効率化」「未来のビジネスの創出」に取り組んでいます。
⑤第一三共株式会社
第一三共株式会社は、2030年のビジョンに「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」を掲げる、国内きっての製薬会社です。
同社では、各業務部門のDX実現に必要なDX推進能力を定義し、それを実現するために組織別に教育プログラムを策定・推進していることが評価のポイントとして挙げられています。
【デジタルトランスフォーメーションの取り組み】
■データ駆動型創薬による革新
■AIと機械学習による変革
■画像AIの活用
■生成AIの活用
- 組織別に教育プログラムを策定・推進し、各業務部門の事業特性や課題・ニーズに寄り沿ったきめ細やかなDX推進
「DX銘柄2024」選定企業の特徴
DX銘柄2024に選定されている企業の全体的な特徴として、全体の回答スコアが高く、挑戦を促す仕組みや人材育成の項目が高い傾向にあります。
また、企業独自のDX推進ロードマップ、中長期経営計画を策定し、積極的に自社の方針を発信しています。
審査員コメントには、各社の活動が企業のパーパス(存在意義)と結びついていることや高い実現能力や情報発信力が評価されているとの記載があり、計画の策定とその発信が評価に大きく影響することが示唆されています。
「DX銘柄2024」選定企業の特徴(抜粋)
-
組織全体で戦略を共有し、「デジタルガバナンス・コード*」を実践している
- DXの観点から経営者が企業価値を向上するために実践すべき事柄をまとめたもの(参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード」)
- 「人材育成」や「挑戦を促す仕組み」に注力している
- KPIを適切に設定できており、目標に向かって確実なステップを踏みながら施策を実行している
「DX銘柄2024」認定企業の成功事例から読み解く、DX推進のポイント
これらの特徴から、DXを推進するためにはまず第一に、経営者含め全社的にITシステムの課題把握・分析を行った上で、DX推進部署の責任者との緊密な連携の上で、機動的な戦略の見直しをしていくことが重要であると考えます。
また、デジタル活用を進める上で、重要なのは「人」です。どれだけ良い戦略を描いても、実行する人材がいなければ何も進みません。
本レポートで示されている事例企業の多くは「全社員によるDXの実現」という共通のメッセージを発信しています。
これは全員が高度なデジタルスキルを身につけなければいけない、ということではありません。デジタルはあくまで手段であり、DXで重要なのはX(変革)を実現することにあります。
実際にDX銘柄選定における評価ポイントの中には以下の記述があります。
デジタル(D)に関する知識を備えていることはもちろん、企業変革(X)を先導できるような人材の育成・確保についても、どのように取り組み、成果が出ているかを評価します。
DX銘柄選定企業の多くは、経営層をはじめ全社一丸となって「自分たちの業務やビジネスを自ら変革していく」というマインドセットがしっかりと出来ており、そのための人材育成に関しても単に研修を受けさせることが目的ではなく、その後の実践を見据えたプログラムを提供されていることが分かります。
すでに多くの企業がDXの推進フェーズに進んでいますが、DX銘柄選定企業のように、その成果を実感している企業はまだまだ少ないのが現状です。
こうした先行企業の事例をもとに、自社の取り組みを改めて見つめなおしてみてはいかがでしょうか。
下記資料では、DX銘柄にも選定された、第一三共様のDX人材育成事例を紹介しています。
▼事例:第一三共株式会社様
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