
製薬会社のDX事例6選|進まない理由や成功させるポイントをわかりやすく解説
新薬開発コストの高騰や薬価制度の見直しなどが進む中、製薬会社におけるDX化は急務となっています。製薬業界でDXを成功させるためには、他社の事例を知ることが欠かせません。
本記事では国内製薬会社6社のDX事例を中心に、製薬業界におけるDXでありがちな課題や成功のコツをわかりやすくお伝えします。
DX研修を実際に行った企業の事例を知りたい方は「導入事例:第一三共株式会社様」「導入事例:株式会社八十二銀行様」「導入事例:株式会社ワークマン様」こちらのページをご覧ください。
リンプレスでは、DX推進人材を育成する研修プログラムと、DXの内製化をサポートするコンサルティングを提供しています。自社のDX推進にお困りの方はぜひご相談ください。
製薬業界でDXが求められている背景
製薬業界でDXが求められている理由は、次の3点です。
新薬開発コストの高騰
薬価制度の見直し
グローバル競争の激化
まずは、製薬業界においてDXの重要性が高まっている理由を見ていきましょう。
新薬開発コストの高騰
新薬開発コストの高騰は、製薬業界にDXが必要な最大の理由の一つです。
厚生労働省が公表している資料によると、医薬品の開発には数百億〜1,000億円規模の費用がかかり、平均開発期間は10年以上に及ぶとされています。さらに、医薬品開発の成功確率は年々低下傾向にあり、現在ではおよそ3万分の1と非常に低い数字となっています。
そこで注目されているのが、AIやデータ解析を活用した創薬・開発のデジタル化です。最近では医薬品の候補物質をAIで絞り込んだり、データ解析にAIを応用したりすることで、創薬を加速させる企業が増えてきています。
薬価制度やビジネスモデルの変化
薬価制度の見直しやビジネスモデルの変化も、製薬会社がDXに取り組む大きな理由です。
日本では、薬価改定が定期的に行われています。ジェネリック医薬品との競争もあり、従来のように新薬の特許期間で長期間の収益を確保することは難しくなりつつあります。加えて、製薬会社には末期治療や予防・予後ケアなど、幅広いヘルスケア領域への展開も求められるようになりました。
このような変化に取り残されないためには、DXによってさまざまな事業をスピード感を持って進めることが大切です。
グローバルな競争の激化
グローバルな競争の激化も、製薬業界がDXを進める理由の一つです。
国内の大手製薬会社の多くはすでに海外売上比率が高く、世界中で事業を展開しています。アステラス製薬は世界70カ国以上でビジネスを行い、武田薬品工業も米国やヨーロッパなどに合計30以上の製造拠点を持つまでに成長しました。
このような環境では、海外のメガファーマや新興バイオテック企業との競争に勝ち抜くスピード感が求められます。創薬研究や臨床試験、サプライチェーン最適化など、デジタル技術によって競争力の差が生まれる領域は多く、DXが製薬の勝敗を分ける要因となりつつあるのです。
製薬業界におけるDXの対象領域は主に4つ
製薬業界におけるDXの対象領域は、主に以下の4つです。
領域 | 内容 |
研究開発 | AIを活用した創薬、文献データの自動解析 |
臨床試験 | ウェアラブル端末や遠隔医療を活用した臨床試験 |
MR・営業・マーケティング | 顧客データの統合管理など |
製造・品質管理 | AIによる品質予測、設備の予知保全 |
DXを成功させるためには、これら4つの領域でDXをバランスよく進めることが大切です。
部門単独でDXを進めるのではなく、複数の部門を横断的に統括できるような組織を設置する企業が多く見られます。
製薬会社のDX事例6選
ここからは、国内製薬会社6社のDX事例を紹介します。取り上げる企業は、次の6社です。
中外製薬株式会社
アステラス製薬株式会社
塩野義製薬株式会社
武田薬品工業株式会社
田辺ファーマ株式会社
第一三共株式会社
各社の具体的な取り組みやポイントも解説するので、ぜひ自社の参考になる取り組みを見つけてみてください。
中外製薬株式会社
中外製薬は、医薬品業界で唯一2020年のDX銘柄に選定された企業です。
同社は2020年3月にデジタル戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表し、「デジタル技術によってビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターを目指す」というビジョンを掲げました。基本戦略は、以下の3本柱です。
全社基盤の構築
全バリューチェーンの生産性向上
デジタル技術を用いた研究開発の高度化
具体的な取り組みとしては、医薬品の候補分子探索や薬物動態予測などにおけるAIの活用が挙げられます。さらに、実世界に存在する電子カルテなどの「リアルワールドデータ」を活用する基盤も整え、患者中心とした医療の実現につなげています。
アステラス製薬株式会社
アステラス製薬は、バリューチェーン全体を通じたDXを推進している企業です。
同社は「デジタルエコシステム」「情報の民主化」「AIによる高度なオペレーション」といった6つの重点領域を設定し、全社的なDXの展開を図っています。
研究領域では、AIによる候補物質のランキング付けや化合物の特性予測、実験結果一覧の自動作成などを導入し、ヒット化合物から医薬品候補化合物取得までの期間を最短で70%短縮することに成功しました。
塩野義製薬株式会社
塩野義製薬は、「テクノロジーとデータと情熱で、ヘルスケアの未来を変える」というスローガンのもと、DXを積極的に進めています。
2025年に策定されたDXビジョンは3本の柱で構成され、3つの戦略テーマに沿って推進されている点が特徴です。具体的なDXプロジェクトには、デジタル治療の流通プラットフォームの構築、全社横断でのデータ活用基盤の整備などがあります。
経営層も積極的にDXへコミットメントしており、DX推進本部長 兼 DX新規事業推進室長を務める三春洋介氏は、「対応すべきはAI等の新技術そのものではなく、時代の変化スピード」とするなど、変化を前提に仕組みを設計してスピーディーな変化をマネージする必要性を強調しています。
武田薬品工業株式会社
武田薬品工業は、2026年のDX銘柄に選定された製薬会社です。
同社は2022年にDD&T(データ・デジタル&テクノロジー)戦略を全社で統合し、組織体制を刷新しました。バリューチェーン全体の変革を指揮するグローバルDD&T部門と、各事業部門内でDXを推進するDD&T部門を配置することで、現場主導のボトムアップで変革できる体制を整えています。
製造領域ではグローバルプログラム「Factory of the Future」を掲げ、世界22以上の製造拠点で品質強化と安定供給に向けたDXを進行中です。
田辺ファーマ株式会社
田辺ファーマは、AIを活用した創薬研究と業務生産性改革の両輪でDXを進めている企業です。同社は2019年4月にデジタルトランスフォーメーション部を発足させ、AIを活用した創薬などに取り組んでいます。
2021年5月には、AIベンチャー企業のHACARUSと共同で、スパースモデリングと呼ばれる技術を駆使した薬物スクリーニング用のAI技術を構築しました。「計算リソースの大規模化」と「AIのブラックボックス化」という2つの課題に対し、スパースモデリングを適用することで、研究者が事前にデータ検討をせずとも薬物評価が行える環境を整えました。
第一三共株式会社
第一三共は、リンプレスのDX人材育成研修を導入したDX銘柄選定企業です。
同社では、業務部門がITベンダーにシステム構築や導入を丸投げしてしまうという課題がありました。また、現場の社員自らにDXを主導してもらいたいといった意識もありました。
そこで、多くの社員がIT企画の立案を身近なものとして感じられるようになることを目的に、リンプレスの「IT企画研修(インハウス)」を導入しています。演習中心のカリキュラムに取り組んだ結果、学んだ内容を現場ですぐに使えるようになるなど、多くの効果が生まれています。
本事例の詳細を知りたい方は、以下のページをご覧ください。
製薬業界特有のDX推進の課題
製薬業界のDXには、他業界にはない特有の課題があります。代表的なものは、次の3点です。
各種法規制への対応が複雑になる
製薬の知識とデジタルの知識を兼ね備えた人材がいない
アナログな社内文化が多い場合がある
ここからは、製薬業界にありがちなDX推進の課題と、それらの解決方法を解説します。
各種法規制への対応が複雑になる
製薬業界では、各種法規制への対応が複雑であることがDX推進の大きなハードルとなります。
医薬品の製造販売には薬機法に加え、GMP省令など個別の細かな規制があります。GMPに対応するためには、原料調達から出荷までの全工程で手順や記録の整備が必要です。ITツールの導入時には、こうした規則への対応にコストがかかります。
製薬業界での導入実績が豊富なITツールを導入する、製薬業界での経験が豊富な専門家のサポートを受けるといった対策が必要です。
製薬の知識とデジタルの知識を兼ね備えた人材がいない
製薬の知識とデジタルの知識を兼ね備えた人材が不足していることも、製薬業界特有の課題です。
製薬でのDXには、創薬・臨床開発・製造・品質管理といった製薬業務への深い理解と、AIやデータ分析などのデジタルスキルの両方が必要です。しかし、両方を備えた人材は少なく、外部から人材を獲得することも容易ではありません。
こうした状況では、社内人材のリスキリングが鍵を握ります。現在企業に在籍している人材のITリテラシーをいかに高めるかが問われているのです。
DX人材育成のためのリスキリングについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
DX人材を育てるリスキリングとは?導入の手順と成功のポイントを解説
アナログな社内文化が多い場合がある
製薬業界では、紙ベースの記録や対面の打ち合わせを重視するアナログな社内文化が根強く残っているケースがあります。
例えば研究開発や品質管理では、長年培われてきた研究方法や、紙ベースでの承認フローが定着していることも少なくありません。業務に合わせてITを導入するのではなく、「ITに合わせて業務フローを刷新する」といった発想の転換が必要です。
事例から読み解く製薬DXを成功させるポイント
製薬会社のDX事例を見ると、成功している企業にはいくつかの共通点があることがわかります。具体的には、次の3点です。
経営レベルでDXをビジョンと連動させる
段階的に進める
外部パートナーと連携する
それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
経営レベルでDXをビジョンと連動させる
DXを成功させている製薬会社は、経営ビジョンとDX戦略を明確に連動させています。
第一三共は、「先進的グローバルヘルスケアカンパニー」というビジョンを支える基盤としてDXを位置づけ、全社的な取り組みを進めています。塩野義製薬は、「HaaS企業への変革」というビジネスモデル転換そのものをDXのゴールに据えています。
全社的なDXを成功させるためには、経営レベルでの取り組みが必要不可欠です。
DXビジョンの策定方法については、以下の記事で詳しく紹介しています。
DXビジョンとは?策定の重要性や事例・進め方のポイントを解説
段階的に進める
製薬業界でのDXを成功させるには、段階的に進めることが有効です。
製薬業界のDXには多様な領域があります。DXに関するノウハウがない状態でこれら全てに一度に取り掛かると、各部門でITツールやデータ基盤が分断する可能性があります。また、最初から大規模なプロジェクトを成功させることは難易度も高いです。
まずは小さな取り組みからはじめ、ノウハウが蓄積されてきた段階で徐々に取り組みを横展開していきましょう。武田薬品工業のように、ボトムアップでDXを推進できる組織体制を整えることもポイントの一つです。
外部パートナーと連携する
製薬業界では、外部パートナーとの連携がDX成功のカギを握ることも多いです。
例えば田辺ファーマはAIベンチャーのHACARUSと組んで独自の技術を構築し、少量のデータから効果的にAI薬物スクリーニングを実現することに成功しました。このほか、クラウド基盤の構築やITツールの導入に外部のコンサルタントを入れる企業も多いです。
外部パートナーと連携すると、自社にない知見・技術を取り込むことができます。社員が外部から学ぶ機会を得られる効果もあるため、人材育成の観点からも有効です。
製薬DXの推進には専門家による伴走支援が有効
製薬DXを成功させるには、業界知識とDX推進ノウハウの両方を持つ専門家による伴走支援が有効です。
事例で紹介した各社も、IT企業やコンサルティングファームとの連携を活用しながらDXを進めています。社内に十分な人材やノウハウがない段階では、外部の専門家と組むことで初動のスピードを高め、リスクを抑えながら変革を進められるでしょう。
特に、業務部門の社員が自らDXを主導できる人材へと育つには、自社の業務課題を題材にした研修プログラムの活用がおすすめです。
DX人材の育成・確保なら「リンプレス」
DX人材の育成や確保にお悩みの製薬会社の方は、累計4,000社以上の支援実績を持つリンプレスへご相談ください。
リンプレスは、DX研修やDXコンサルティングを行う専門企業です。基礎的なDXリテラシーから専門的なスキル習得まで幅広く対応しており、業界や企業の特性に応じてカリキュラムをカスタマイズできる点が強みです。
今回ご紹介した事例の中でも、例えば第一三共株式会社ではリンプレスの「IT企画研修(インハウス)」を導入いただいています。
リンプレスのDX人材育成プログラムの特徴
リンプレスのDX人材育成プログラムには、以下のような特徴があります。
企業ごとの課題に応じてカリキュラムを柔軟に設計できる
実務で直接活かせる実践的な学びを実現できる
4,000社以上の経験に基づいて蓄積された豊富なノウハウがある
DXは、座学で知識を習得するだけではなかなか実践まで結びつきません。研修の効果を最大限に引き出すためには、演習やワークショップを通じて実務との接続を意識した研修プログラムにすることが大切です。
リンプレスでは、ワークショップやハンズオン形式での研修を豊富にご用意しております。個別の企業の課題に合わせて内容をカスタマイズすることも可能です。
まとめ
本記事では、製薬会社のDX事例6選とともに、製薬業界特有の課題や成功のポイントを解説しました。
新薬開発コストの高騰、薬価制度の変化、グローバル競争の激化といった背景の中、各社は研究開発から製造、営業に至るバリューチェーン全体でDXを推進しています。
複雑な法規制や人材不足といった製薬業界特有の事情に対応するためには、外部の専門家とも連携しながら、経営レベルでDXを進めていくことが欠かせません。DX人材の育成・内製化支援については、ぜひリンプレスへご相談ください。
<文/文園 香織>











