宮城県 気仙沼市
https://www.kesennuma.miyagi.jp/
市の概要:宮城県北東部に位置し、世界三大漁場の一つである三陸沖に面した港町
課題:人口減少に伴う産業人材の不足で、生産性向上が急務であった。また、市内事業者の多くは「デジタルを推進する人材がいない」「従業員のITツール利用能力が低い」など人材面の課題が顕在化していた。

Overview
気仙沼市は宮城県北東部に位置する港町で、国内屈指の良港・気仙沼港を核に、漁船漁業から加工・流通、造船や冷凍・梱包まで水産関連産業が幅広く集積しています。サンマ、カツオ、マグロに加え、フカヒレ原料となるサメの水揚げ量が国内一であるなど、豊かな海の幸と加工・流通の技術が地域の強みです。
東日本大震災からの復興を遂げる一方で、人口減少や産業人材の不足は依然として大きな課題であり、市は「産業立市」を掲げて自力で稼ぐ力の強化を進めています。こうした背景を踏まえ、気仙沼らしさを生かしたLDX(ローカル・デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、現場に寄り添うデジタル化や人材育成に取り組んでいます。
リンプレスは、2024年度より気仙沼市内事業者向けのデジタル人材育成プログラム「DX課題解決型実践プログラム」の提供を開始しております。
今回は、本プログラムの導入に至った背景や今後の展望について、気仙沼市 産業部 産業戦略課の平田様、井上様にお話しを伺いました。
※本件に関するお問い合わせはこちらからお願いします。気仙沼市様へ直接のご連絡やお問合せはご遠慮ください。
-所属部署の役割と現在の担当業務について教えてください。
平田様:当課は震災後に設置され、既存産業の復旧・復興と新規事業の創出を目的に活動しています。震災復旧フェーズは一段落しており、現在は企業誘致、DX・デジタル化、スタートアップ支援、産業人材育成、地場産品の販路拡大などの新規施策に注力しています。水産業の復旧では造船所の再構築や燃油タンクの安全対策など大規模なプロジェクトも手がけてきましたが、今は産業の持続性と生産性向上が中心課題です。
-市内事業者向けにデジタル人材育成に取り組むことになった背景と、当時の事業者の課題を教えてください。
平田様:最大の背景は人口減少に伴う産業人材の不足で、限られた人員でいかに生産性を上げるかが喫緊の課題でした。特に水産を含む一次産業から加工・流通に至るまでデジタル化が遅れており、これまでもセミナーや機材購入補助などの支援を行ってきましたが、参加が断続的で継続性が得られませんでした。そこで令和4年度にアンケートを実施したところ「デジタルを進める人材がいない」「従業員がITツールを使いこなせない」という人材面の課題が多数挙がり、企業内でデジタル人材を育てる研修が必要だと判断しました。

気仙沼市
産業部 産業戦略課 課長
平田 智幸 様
-デジタル人材育成に関する取り組みは、今回の「DX課題解決型実践プログラム」が初めての試みだったのでしょうか。
平田様:はい。震災後には次世代の経営人材を育てる取り組み(経営未来塾)は行っていましたが、デジタルやDXに特化した長期の実践型研修は今回が初めてです。
-リンプレスに依頼をした理由と、このプログラムを導入する決め手は何でしたか?
平田様:リンプレスを知ったのは外部支援事業者の紹介がきっかけでしたが、採用に至った最大の決め手は、リンプレスが事前に市内で10社以上のヒアリングを自主的に行い、現場の声に寄り添って伴走する姿勢を示してくれていたことです。単なる座学ではなく、地域の実情を深く理解している点が信頼につながりました。
◇気仙沼市内事業者向けに実施した「DX課題解決型実践プログラム」の概要

<本プログラムのゴール・到達目標>
DXに必要なスキル+現状分析、課題特定、To-Be設計の実践方法を習得し、自社のDXに関する課題を特定し、実際の自社DX施策を立案することを目的としています。
「DX課題解決型実践プログラム」とは
「DX課題解決型実践プログラム」は全11回から構成されるDX推進者育成プログラムです。
DXに必要なスキルや基本的な考え方を取り入れながら自社・自部署のDXに関する課題を特定し、 DX施策(企画)を立案することで実践に向けた実行力を鍛えることができます。

プログラム内容
全11回のプログラムを通して、DX推進に必要な「実践的スキル」と、DXプロジェクトを推進する「実行力」を身につけることができます。

-実際のプログラム内容や参加者の反応はいかがでしたか?
井上様:第1回(2024年度)は8社13名で実施し、全11回・半年間の長丁場でした。毎回宿題もあり大変だったという声はありますが、繰り返し取り組むことで思考の整理が進み、受講者に「考え方」が定着したと感じています。受講者からは「課題解決に向けた考え方が整理できた」「DX施策の立案でやるべきことが理解できた」「グループ討議で他社の違いが学べた」といった評価が上がりました。
また、長期で本気の参加者が多かったのが印象的でした。プログラムでは課題の構造化や可視化を行うツールも提供しましたが、もともとモチベーションが高い受講者が多かったこともあり、狙い通り人材面の変化は見られました。

気仙沼市
産業部 産業戦略課 主幹
井上 隆 様
-実践に繋がった具体例はありますか?
井上様:ある参加企業は研修をきっかけに担当者がDX推進を主導し、複数の施策を実用化して生成AIも業務に取り入れ始めています。最終発表のテーマも各社の業務に直結する具体的な内容が多く、研修の成果が実際の施策につながっているケースが確認できています。
-参加企業の募集や選定方法について教えてください。
井上様:第1回(2024年度)は事前ヒアリングを受けた事業者を中心に案内しましたが、第2回となる今回(2025年度)は気仙沼商工会議所を経由して募集し、市からも個別に声掛けを行いました。また、募集条件は今年度から「おおむね社会人経験5年以上」に絞るなど、一定の業務知識を持つ人材を対象にしています。
-参加企業にとってどの点が魅力に映ったと考えますか?
平田様:一般的なDXに関する研修はプログラミングやデジタルツールの活用などテクニカルな面に偏りがちですが、本プログラムは「DXの考え方」「巻き込み方」「整理の仕方」を中心に伝え、かつ「自社の実課題をテーマに扱う」点が刺さったようです。
どの業務をどの程度デジタル化するかは企業ごとに異なります。そのため、一律のスキル教育よりも、現場でどう考え、どう対応するかを学ぶことが重要だと捉えています。
-次年度以降の展望や、市としての今後の進め方を教えてください。
平田様:今後ますます人手不足が深刻になるため、誰でもできる仕事はAIやデジタルに任せ、社内の貴重な人材は真の課題解決に注力するという方向で進めたいと考えています。加えて、昨年発表した「産業パッケージ」では、ふるさと納税の寄付金を原資に10年間で計60億円を産業振興に投じる方針を掲げており、その主要な柱に「デジタル人材育成」と「産業のデジタル化」を位置付けています。省人化や新規事業展開をデジタルで支援していく予定です。
◇気仙沼市発表「産業パッケージ ~稼ぐ力で未来を拓く~」の概要(詳細はこちら)
気仙沼市は、人口減少・少子高齢化という構造的課題に対応するため、自力で地域経済を支える「産業立市」を掲げ、将来への投資を重点とする「産業パッケージ」を立ち上げました。
本パッケージは、ふるさと納税を原資に10年で総額約60億円を投じ、観光の強化や水産の川下化、徹底した省人化・新規事業支援など、付加価値創出に資する施策を集中的に支援します。特に産業人材の育成と、AI時代に即したLDX(Local×DX)人材育成を重点分野に位置付けており、市内企業における「デジタル化を推進する人材」の不足に対応するため、企業内のデジタル人材育成を目的としたDX研修やデジタルリテラシー向上の機会を提供します。あわせて生成AIを含む先端ツールの活用スキルを学ぶ場を設け、業務の効率化や生産性向上、人的資源の高度化を促進します。施策は地方創生2.0の考え方と連動しつつ、成果や情勢を踏まえて柔軟に設計・見直しを行い、挑戦する事業者を力強く後押しして地域の持続可能な成長を目指します。
Ⅰ 観光を成長産業へ 【10年総額 11.5億円】 | |
|---|---|
①インバウンド始動 | ● 「(仮称)きらぼしデスティネーション」の創造と確立 ● 海外エージェント(観光レップ),外部人材の起用 ● 小サイズのラグジュアリーなクルーズ船やスーパーヨットの誘致 |
②ホヤぼーや大作戦 | ● ホヤぼーやスタジオの設置とホヤぼーやルーム(ホテル)の展開 ● ホヤぼーや全国ステージキャラバン |
③お客様の快適化 | ● 宿泊施設や飲食店のリノベーションと上質化 ● 観光サービスのDX ● 景勝地等の魅力向上(通景伐採,再整備) |
④DMOの進化と深化 | ● 観光戦略のブラッシュアップ(観光戦略 2.0 の策定) ● 市/観光団体へのプロフェッショナル人材の戦略的配置 ● 観光系の学会や大学学部との連携による最先端の学び |
Ⅱ「稼げる経済」再創出 【10年総額 27億円】 | |
①水産業の持つ不確実性からの脱却 | ● 水産業の川下戦略 ● 「Catching」も「Farming」も ● デジタル水産都市への進化 ● ヒット商品開発 |
②市内事業者における | ● 人材確保力の強化 ● 徹底した省人化や新規事業への展開 ● 目指せ「気仙沼発」全国展開企業 ● 「地産外商戦略」の推進 |
③革新的な農業経営への転換 | ● 「維持する農業」から「稼げるアグリビジネス」へ |
Ⅲ ひとからはじまる産業まちづくり 【10年総額 5億円+Well-beingプラン】 | |
①女性、高齢者、外国人の活躍推進 | ● 女性活躍の推進 ● アクティブシニアの溢れるまち ● 外国人に選ばれるまち ● 誰もが仕事のよろこびを持てるまち |
②就労環境の改善 | ● 市内企業の魅力度向上 ● 「気仙沼JOB BASE」の取組推進 |
③産業人材の育成 | ● 「経営人材育成塾」の継続と新メニュー展開 ● AI時代のLDX人材育成 ● ものづくり人材の育成 |
Ⅳ 多様な産業の創出と積極誘致 【10年総額 6.5億円+㊭ 10億円】 | |
①企業誘致の積極的推進による雇用の創出 | ● 全方位での企業誘致の推進(産業構造の多角化) ● 企業誘致アドバイザーの招へい ● 企業誘致優遇制度の戦略的運用 ● 遊休公共施設を産業創出の場に |
②産業版まち大学構想 ~多様な出会いが生み出す経済の変革~ | ● 異なる要素が連携し合うイノベーション拠点の創出 ● スタートアップ支援 ● 気仙沼ビジネスサポートセンターの強化 ● 大学生・社会人が対象のビジネスコンテストの開催 |
※ ㊭は人口減少対策パッケージ「企業誘致特別枠」の事業費 引用:気仙沼市 記者発表資料(「産業パッケージ~稼ぐ力で未来を拓く~」を創設) | |
-気仙沼ならではのDX、いわゆる「LDX」の考え方について教えてください。
平田様:気仙沼は水産が基幹産業であり、そこを核にDXをどう当てはめるかが鍵です。単に全国の成功事例を持ち込むだけではうまくいきません。地域の強み(魚種や加工技術、漁業の構造)とDXを融合させることで、気仙沼らしい持続可能な産業モデルを作ることを目指しています。
井上様:加えて、気仙沼は大企業が少なく事業者は小規模が多いという特性があります。小規模事業者が限られたリソースでどうDXを進めるかを考えることもLDXの重要な視点です。
-自治体間や他地域との情報共有は進んでいますか?
平田様:自治体間での情報共有はあまり活発ではありません。宮城県全体でも先進的とは言えない中、気仙沼市は独自にチャレンジする方針を取っています。今後、気仙沼の事例に対して他市から視察や問い合わせが増えていけば、横展開の機会も作っていきたいと考えています。
-最後に、今後プログラムに期待することやメッセージがあればお願いします。
平田様:まずは継続です。今回のような長期の実践型プログラムで得られた成功体験を積み重ね、参加企業を増やし、地域全体でのデジタル化の波を広げていきたいです。産業パッケージとも連動しながら、地域に根ざしたLDXを推進していきますので、引き続き民間支援事業者とも連携しながら取り組んでいきたいと思います。
井上様:参加者の伴走やトップ層の理解を得る仕組みは重要です。引き続き参加企業の実践を支援し、成果が周囲に波及する構図をつくりたいです。
平田様:地域の特色を踏まえたLDXの考え方は他地域でも参考になる部分があるはずです。現場での伴走型支援を続け、継続的な学びと実践を支えていきます。
-ありがとうございました。今後の取り組みの進展を期待しています。
(取材・文/森田 晋之介)
CONTACT
「DX課題解決型実践プログラム」の
詳細はこちら
ご不明な点はお気軽にお問い合わせください
お電話でのお問い合わせはこちら
平日 9時〜17時